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【出雲國だより第4回】古事記・出雲国風土記に見る出雲の食文化

出雲ぜんざい

神々の聖地・出雲国に受け継がれる文化や食、そして人々の営みをひもとく「奥出雲NAORAI」の連載シリーズ。
第4回は、『古事記』と『出雲国風土記』に記された出雲の食文化をご紹介します。古くから豊かな食材に恵まれてきた出雲の風土、特別な力を宿すものとして語り継がれた仁多郡の稲、そして出雲発祥と言われる出雲ぜんざいの物語をたどります。

日本には古来、自然界のあらゆるものや現象に八百万(やおよろず)の神々が宿るとする信仰が根付いています。なかでも、神話の舞台として数々の伝承が残る出雲の国は、神々と人々の距離が近い、特別な地として語り継がれてきました。

この出雲の地が、いかに豊かな自然の恵みに溢れた場所であったか。その事実を現代に伝えてくれるのが、奈良時代に編纂され古代に作られた諸国の風土記の中でも、今なおほぼ完本の形で残る『出雲国風土記』です。 およそ1300年という時を超えて読み継がれるこの書物には、当時の出雲の豊穣を象徴する、次のような一節が記されています。


「亦、山野・浜浦の処、鳥獣の棲、魚貝・海菜の類、良に繁多にして、悉には陳べず」

これは、「出雲の山や野、浜や浦といった地形、そこに生息する鳥や獣、魚貝類や海藻といった海の幸、山の幸は実に多種多様で数え切れないため、到底ここですべてを記し尽くすことはできない」という意味です。 1300年も昔にこの地を治めていた人々にとって、出雲という土地は、あえて語るまでもないほどに、命を育む食材に満ち溢れた食の宝庫だったのでしょう。森の息吹、清らかな水、海からの風。豊かな風土がもたらす食材の数々は、神々への尊きお供え物(神饌)となり、また人々の命を支える大切な糧となってきたのです。

生命力を宿す稲。米どころ「仁多郡」の記憶

奥出雲町 棚田 里山 農業風景

この豊かな出雲の地のなかでも、古くから上質な「米どころ」としてその名を知られていたのが、仁多郡(奥出雲町)です。「奥出雲NAORAI」が皆様にお届けしている「仁多米」を育むこの美しい土地について、『出雲国風土記』にはとても神秘的で興味深い伝承が残されています。

「今も産む婦、彼の村の稲を食はず。若し食ふ者有らば、所生るる子已に云ふ也。故、三津と云ふ。即ち正倉有り」

これは、三津(または三澤郷:現在の奥出雲町三沢地区周辺)の清水で育った稲にまつわる伝承です。「妊娠中の女性が、この地で育った稲を食べると、不思議なことに生まれたばかりの赤子が生まれながらにして言葉をしゃべるようになってしまう。それゆえ、妊婦はこの村の稲を口にしない」という内容が記されています。 生まれた赤子が言葉を発するほどに、この土地の米には強い生命力と神霊が宿っていると信じられていたのでしょう。
奥出雲の清らかな雪解け水と昼夜の寒暖差が激しい肥沃な大地が、古来どれほど強く質の高い米を育んでいたかを物語る、興味深いエピソードです。

また、同じ一節には「即ち正倉有り」と記されている点があります。正倉とは、当時の役所が管轄し、稲などの穀物を厳重に保管するための公的な倉庫を指します。

神話の舞台として語られるだけでなく、『出雲国風土記』が編纂された時代において、奥出雲はすでに官舎や大きな倉庫が立ち並んでいたようです。良質な米が豊富に獲れるこの豊かな土地は、出雲の国を支える重要な拠点として、守られてきたのでしょう。

『古事記』に記された五穀の起源

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神話とつながる出雲の食文化を語る上で重要な食材があります。それが「小豆」です。 小豆が日本の歴史書に初めて登場するのは、712年にできあがった日本最古の歴史書『古事記』の神話の世界。有名なヤマタノオロチ退治にまつわる話として描かれています。

神話によれば、乱暴行為を働いたことで高天原(たかまのはら)を追放されたスサノオノミコトは、地上に降りる道中、食物の女神であるオオゲツヒメノカミに食事を求めました。女神はスサノオノミコトをもてなそうと、自らの鼻や口などから様々な食材を取り出して見事な調理を始めます。しかし、その様子を覗き見たスサノオは、「汚いものを自分に食べさせようとしている」と勘違いをし、怒りに任せて女神を斬り殺してしまったのです。
すると、命を落としたオオゲツヒメの亡骸から、次々と新たな命の種が芽吹き始めました。頭から蚕が生まれ、2つの目から稲が、2つの耳から粟が、陰部から麦が、鼻から小豆が、そして尻から生じたのが大豆であると記されています。 神の身を犠牲にして生まれたこれらの作物は、その後「五穀」として人々の命をつなぐ大切な糧となりました。自らの命を捧げて食をもたらしたオオゲツヒメノカミの物語は、死と再生、そして自然の恵みへの畏敬の念を私たちに伝えてくれます。

この出来事の直後、スサノオノミコトは出雲へと降り立ち、ヤマタノオロチ退治へと向かいます。小豆の誕生が、ヤマタノオロチ退治という物語の壮大な幕開けの直前に描かれていることは決して偶然ではないのでしょう。古代から小豆は、出雲の神話世界と地続きにある、神聖で特別な穀物であったことを示しているのではないでしょうか。

ぜんざい発祥の地、出雲

女神の身から生まれた神聖な小豆。その小豆をふんだんに使った甘く豊かな食べ物「ぜんざい」の発祥の地が、出雲地方であることをご存知でしょうか。 旧暦の十月。全国の八百万の神々が出雲地方へと集うこの月を、他の土地では「神無月(かんなづき)」と呼びますが、出雲地方では神在月(かみありづき)」と呼びます。出雲大社をはじめとする各神社では、集まった神々をもてなす「神在祭(かみありさい)」が厳かに執り行われるのです。この特別な祭事の際に振る舞われた料理の一つが、小豆を煮た汁に餅を入れた「神在餅(じんざいもち)」です。
出雲の地で振る舞われていたこの「じんざい」が、出雲特有の訛りによって「ずんざい」と発音されるようになり、それが京都や江戸といった都へ伝わる過程で、現在の「ぜんざい」という名に変化したと言われています。 小豆の赤い色は、古くから邪気を払い、魔を退ける力があると信じられてきました。

神々が集まる特別な日に、清らかな餅とともにあたたかな小豆汁を供える。出雲発祥のぜんざいは、土地の風土と深い信仰心が結びついて生まれた、祈りの一皿でもあったのです。

『出雲国風土記』に記された、数え切れないほどの海と山の幸。生命力を宿す仁多郡の稲。そして、『古事記』にその素材の起源が描かれ、神在月の出雲で生まれたぜんざいの物語。 古代から脈々と受け継がれてきた出雲の食文化の根底には、常に自然への深い畏怖と、神々への感謝の念が流れています。

私たち「奥出雲NAORAI」が皆様の元へお届けする品々のひとつひとつに、出雲という特別な土地の風土と、はるか古代から自然と共生してきた人々の尊い想いが込められています。

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